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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(れ)98号 判決 1951年5月01日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人山菅正誠の上告趣意は末尾に添附した別紙記載のとおりである。

第一点について。

旧刑訴二〇一条一項三号及び一八八条二項にいう「共犯」とは、刑法六〇条以下の定める共犯(狭義の共犯)のみを指すのではなく、収賄及び贈賄の罪のように、法律がそれぞれ別個の罪として規定していても、その性質上たがいに関与、加担の関係がある場合(いわゆる必要的共犯に属する場合)をも含むものと解すべきである。なぜなら、当該事件の被告人と右のような関係にある者を証人として調べる場合、その宣誓及び供述義務の有無について、刑法上の共犯関係にある者と別異の取扱をすべき理由はないからである。それゆえ、原審が所論証人宮原直樹(被告人に対する贈賄者)を尋問するにあたり、旧刑訴二〇一条一項三号に該当する者と認めて宣誓をさせなかったのは正当な措置であり、従って、同証人の証言は宣誓を欠くため証拠となしえないものであるという所論は当たらない。また原審が右証人の証言を措信して被告人の供述を採らなかったことには、何等所論のような経験則違反は認められず、この点の非難は、畢竟原審の裁量権の範囲内に属する証拠の取捨判断の攻撃に帰着するものである。論旨は採用できない。

第二点について。

記録によれば、所論昭和二五年二月二八日の原審第五回公判期日には、弁護人千葉清雄、岡部常は、両名とも適法な召喚を受けながら出頭しなかったのであり、しかもその不出頭につき何等の正当な理由も示された形跡がないのである。右のように、弁護人が正当な理由のないのに公判期日に出頭しないときは、弁護人の立会のないまま、審判手続を進め、その期日に喚問した証人の尋問を行っても、所論のように不法に弁護権の行使を制限するものとはいえないことは、当裁判所の数次の判例の趣旨とするところである(昭和二三年(れ)第一九四四号同二四年一二月二一日大法廷判決、昭和二四年(れ)第二五八八号、同二五年三月一四日第三小法廷判決等)。従って論旨は理由がない。

第三点について。

被告人が原判示のように受刑者小俣清一及び宮原直樹から現金五千円の供与を受けた事実は、原判決挙示の証拠に照らし、充分これを肯認できる。所論のように、右現金を小俣らが入手した経路等につき、詳細に裏づけの証拠を取調べたうえでなければ、原判示のような認定ができないというわけのものではない。それゆえ、原判決には何等所論のような理由不備、理由そご及至審理不尽の違法は認められず、論旨は採用できない。

第四点について。

原判決挙示の証拠を綜合すれば、充分に原判示事実を肯認できることは前記のとおりである。細部の点で各証拠の間に多少のくいちがいがあることは、すこしも原判示の認定を妨げる理由とはならない。原審の事実認定は何等経験則に違反してはいないし、所論のような審理不尽、理由そご等の違法は認められない。そしてその余の所論は、結局原審の裁量に属する証拠の取捨判断及び事実の認定を非難するものにほかならないのであるから、上告の適法な理由にならない。

よって旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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